約 438,537 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1012.html
ルイズは学院の自室で、ベッドの上に寝ころんでいた。 トリスティンの城でアンリエッタに抱きつかれてわんわん泣かれ、ウェールズからはアルビオン王家に伝わる『風のルビー』を渡され、マザリーニ枢機卿からは王室御用達の馬車で「魔法学院視察のついでに」送ってもらい、至れり尽くせりだった。 ウェールズ皇太子を連れて帰った事で、何か怒られやしないかとビクビクしていたが、マザリーニ枢機卿は馬車の中でルイズに礼を言ってきた。 「アンリエッタ姫殿下がこの度のことでご成長なされたのは、ミス・ヴァリエールのおかげです」と。 「そそそそそんな!わわ私は迷惑をおかけするばかりで」 ルイズは緊張と驚きのあまり、どもってしまったらしい。 ルイズの希望で学院の門内まで馬車を入れず、門の前で降りることになった。 あまり目立ちたくないと思ったからだ。 まだ授業の時間中だったせいか、学院の生徒には見られなかったので、ルイズはほっと胸をなで下ろした。 不思議なことに、ルイズは騒がれなかったことに安堵していた。 以前の自分なら、キュルケほどではないにしろ、皆から注目されることを喜んだだろう。 魔法の失敗ではなく、純粋な功績を賞讃しろと言いたくもなっただろう。 だが、それがとても野暮なものに感じたのだ。 右手を挙げる。 意識を集中させると、半透明の腕が現れる。 しかしそこには何かが足りない。 自分を安心させてくれる、何かが… 「ミス・ヴァリエール」 コンコン、と扉が叩かれ、名前を呼ばれた。 ロングビルの声だ、そう言えば桟橋で助けてくれたのに、ロングビルにお礼も言ってない。 ルイズはベッドから飛び起き、慌てて扉を開けた。 「ミス・ロングビル!」 「ミス・ヴァリエール、オールド・オスマンがお呼びですわ」 「あ…報告するのすっかり忘れてた。それと、ミス・ロングビル、あの時は…」 「役目を全うしただけですわ、さ、オールド・オスマンは今か今かと待ちわびています」 ロングビルに促され、ルイズは、学院長室へと移動した。 学院長室の重厚な扉をロングビルがノックすると、扉の向こうから「入りたまえ」と聞こえる。 扉を開けると、いつもと変わらない飄々とした表情のオールド・オスマンが待ちかまえていた。 「ふむ、で、任務はバッチリじゃった訳じゃな」 オールド・オスマンがひげを撫でながら言う。 「はい、ただ…」 ルイズはウェールズ皇太子のことを報告すべきかと、一瞬悩んだが、それをオスマンが制止する。 「おっと、それ以上言わんでいいぞ、何せこれは密命じゃからな、ワシも余計なことまで知る気はない」 「ありがとうございます」 「授業に関しては補習をもうけることも出来るが…まあ、それは追って伝えようかの、とりあえず今日はもう休みなさい」 「はい」 ルイズが学院長室を退室すると、オスマンは背もたれに身体をあずけ、うーむとうなって背伸びをした。 ふとロングビルを見ると、書類を書く手を止めて、なにやら考え込んでいる。 「ミス・ロングビル、どうしたんじゃ? もしかして『せっかくアタシも手伝ったのに全部教えてくれないなんてズルイ!』なーんて拗ねとるのか?」 「もうろくも大概にして下さい、…確かにその通りですが」 「ほっほっほ、まあ予想はつくわい、ミス・ヴァリエールの指にはめられていたのはアルビオン王家の象徴、風のルビーじゃよ、彼女は大物になるかもしれんのう」 「…!」 風のルビーの話で、ロングビルの目つきが一瞬だけ鋭くなったのを、オスマンは見逃さなかった。 ルイズは部屋に戻る前に、あることを試すことにした。 ヴェストリの広場に行くと、丁度授業の終わりを告げる鐘の音が聞こえてくる。 ギーシュと決闘したこの場所で、ルイズは杖を振り上げた。 胸に去来する喪失感を埋めるように。 「宇宙の果てのどこかにいる私のシモベよ…」 任務を成功させた自分の実力を確かめるかのように。 「神聖で美しく、そして、強力な使い魔よッ」 自分の心を満たしてくれる存在を欲するように。 「私は心より求め、訴えるわ」 そしてこれから始まる運命に導かれるように。 「我が導きに…答えなさいッ!!」 …爆発は、起きなかった。 タバサは、空から不思議な光景を目撃した。 ガリアからシルフィードに乗って魔法学院に帰ってきたタバサは、ヴェストリの広場にいるルイズを目撃したのだ。 ルイズの隣には見慣れぬ人物が佇んでいるのを見て、タバサは首をかしげた。 キュルケは、窓の外に見えるタバサとシルフィードを見て、タバサを迎えに行こうと部屋を出た。 しかし、廊下で何人かの生徒が、ルイズのうわさ話に興じていたので、思わず聞き耳を立ててしまう。 そして話の内容を聞き、腹を抱えて笑い出した。 ギーシュは、廊下をどたばたと走り回るマリコルヌを制止していたた。 「風上のマリコルヌ!そんなに走り回っては痩せてしまうよ、…そうか、ダイエットかい?」 「ちちち、違うよ!さっき廊下から中庭を見たら、ゼロのルイズがサモン・サーヴァントを!」 それを聞いた他の生徒が、呆れたように言う。 「なあんだ、ゼロのルイズがまた失敗したのか」 「違うって!成功したんだよ!」 これにはギーシュも驚く。 「何だって!?」 周囲で聞いていた他の生徒達も驚いたが、マリコルヌは更に言葉を続けた。 「もっと驚いたのはさ、召喚されたのが………」 to be continued...? 前へ 目次
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1516.html
漆黒のキャンバスに、赤の月が満ち、もう一方の月の色を侵食する夜。 闇色と朱色に彩られた庭園を、一人の幼い少女が駆けていた。 ―――はぁ……はぁ……はぁ…… 少女は、逃げていた。 嘲笑、蔑み、劣等感。 ありとあらゆる不の感情から逃げていた少女は、やがて一艘の船に辿り着いた。 ―――はぁ……はぁ、はあ…… 短く呼吸を正し、船に乗り予め用意されていた毛布に包まった少女は、みっともなく泣き腫らしている。 「―――無様ね」 少女しか居ないはずの船の上に声が響く。 苛立ったようなその声は、思い出したくも無い過去の失敗を穿り返された人間のそれに似ている。 誰にも見つからぬよう、声を押し殺し泣く少女だったが、不意にその顔が笑顔へと変化した。 頬を紅く染め上げ、はにかみながら笑う少女の視線の先には羽根つき帽子を目深に被った一人の男性が立っていた。 「子爵……様」 少女がその男性を知っているように、声の主もその男性を知っていた。 幼き恋心の対象。 そして、父と男性によって交わされている約束。 男性に手を引かれ、恥ずかしそうに船から降りた少女は庭園を後にする。 自分達を見つめている者の視線にまったく気がつかずに…… それもそのはず。 今、此処に展開されているのは、一人の少女の『記憶』 普段は日常に埋もれ、決して掘り起こされない、過去の事象。 それが、夢と言う幻燈機械に掛けられ、ただ一人の為に上映されているのだ。 観客はただ一人。 主役であり、脇役であり、脚本家であり、監督でもある存在。 その存在は、自らの過去である少女に侮蔑と決別の溜め息を吐きだして、幻燈機械を停止した。 「夢……か」 まどろみと陽射しに包まれ、何処と無く朦朧とした視線を漂わせる。 視界にあるのは、木々が生え、涼しげな池が存在する庭園では無く、一年間住み続けている自分の部屋であった。 「ホゥ、今日ハ、ヤケニ早イ目覚メダナ」 「存外に失礼ね、あんた」 椅子に座って、一枚のDISCを手で弄んでいるホワイトスネイクの軽口を適当に返事を返しながら、着替えをするルイズ。 性別不詳のホワイトスネイクを前にして裸になる事に、微塵の羞恥心すら無い事が、そこから窺い知れる。 手早く着替えを終えたルイズは、飽きずDISCを弄りとおしているホワイトスネイクに声を掛けて、さっさと食堂へと出かけていった。 食堂で、やたらと豪勢な朝食を食べたルイズは、その足で今日の授業が行われる教室へと向かう。 確か、今日の授業は、ミスタ・ギトーが講師を務めるはずだと思い出すと、朝からあまり良くは無かった機嫌が、一段と悪くなるのが分かった。 ミスタ・ギトーは『風』が最強と言う持論を生徒達にも強要する先生であり、その冷たい論調と傲慢な態度に嫌っている生徒も少なくない。 と言うより、ギトーを好きな奴を探すとなるとこの学院を、それこそ掘り返しても探さないと発見できないぐらいに嫌われている。 ルイズも、その例に漏れず、ギトーの事を嫌っている生徒の一人だ。 別に、何が最強と思うのは個人の勝手だ。 しかし、その考えを無理矢理他人に強要するところが、ルイズは好きにはなれなかったのである。 「あら、今日は早いのね。ルイズ」 「ちょっとね……そういう貴方も早いのね」 挨拶をしながら欠伸をするキュルケに、ルイズはそう聞き返すと、女の嗜みよ、となんだか良く分からない返答が帰ってきた。 ともあれ、教室の隣同士の席に座って話をしていると、暫くしてタバサも教室に現れ、キュルケに誘われ、同じ机に席を置いた。 女三人寄れば姦しいとは言ったもので、普段お喋りなキュルケはともかくとして、人並みに話すルイズと、普段まったく会話をしないタバサも、ぺちゃくちゃとお喋りに花を咲かせていた。 そうこうしている内に、授業の始業時間となり、ミスタ・ギトーが髪色と同じ真っ黒なローブを揺らしながら教室の扉を開け、教壇に立った。 「では授業を始める」 何の面白みも無く、淡々とした言葉遣いで始まりの挨拶をしたギトーに、生徒の大半は心の中で溜め息を吐いた。 学生と言う身分は勉強しなければならないと言う事は分かっているが、どうしてもそこに娯楽性を求めてしまうものである。 他の授業―――例えば、火の魔法の授業であるコルベールなどは、時々変な発明を授業で発表したりするが、 あれはあれで、そこそこ受けが良い。無論、外す時もあるが。 ともあれ、この授業は、娯楽性と言う点で言えば最低ランクのさらに下のランク外であり、生徒達はこの苦痛な時間が早く過ぎる事を祈っていた。 この時までは――― 「骨が燃え残るか心配なんですけど、私」 「何、心配には及ばない。君の炎は私のマントの切れ端すら燃やせないだろうからな」 睨みあうキュルケとギトー。 お互いに杖を引き抜き、すでに臨戦態勢だ。 こうなった理由は簡単である。 炎が最強であると言ったキュルケに、ギトーが、ならば君の力で証明してみせろとキュルケを挑発したのだ。 始めは乗り気で無かったが、家の事を引き合いに出されると彼女としても本気を出すしかない。 魔力で編まれた焔を、さらに巨大にさせた直径1メイルもの炎の弾は、喰らえば大火傷、下手をすれば命まで燃やし尽くされる程の火力を有している。 勝利を確信して焔を放つキュルケだったが、満を持して放った炎が掻き消され、自身もまた疾風によって吹き飛ばされた。 その光景に誰もが息を呑む。 普段、おちゃらけた態度で居る事の多いキュルケであるが、その実力は折り紙つきで、誰もが認める程であったからだ。 だと言うのに、ギトーは、キュルケに勝った事が規定事実のように、 少しの高揚も感じさせない声で『風』が最強であると言う、偉ぶった演説を始めた。 ルイズは、そんな演説などクソ喰らえだった。 吹き飛ばされるキュルケの身体を受け止めるように出現させたホワイトスネイクに彼女の身体を受け止めさせると、愛用の杖を握り締めて、こつこつと甲高い足音を響かせギトーへと向かっていった。 ギトーは突然立ち上がった生徒に眉を顰めたが、今、自分が吹き飛ばした生徒と同じくフーケ討伐で名を上げた生徒だと知ると、特に注意もせず、教壇と同じ高さに降りてくるまで待ってから、先程と同じように挑発から会話を始める。 「ほぅ、どうやら、君も『風』が最強と言う事に異論があるらしいな、ミス・ヴァリエール。 異論があるなら、先程の彼女のように私に魔法をぶつけてくると良い。 何、君に使える魔法があればの話だがね」 ギトーは、ホワイトスネイクの能力を知らない。 基本的に生徒に関して無関心である為に、生徒よりもさらに重要度の低い使い魔の事など、どうでも良いからだ。 その為、ギトーの中では、ルイズは魔法の使えない無能な生徒のままで時が止まっている。 ルイズは、とりあえずギトーの挑発を無視してキュルケの傍へと歩み寄る。 ギトーを如何こうするより、キュルケの体調の方が、重要度が高い為に。 「大丈夫、キュルケ?」 「平気よ。それにしても、ほんと、貴方の使い魔って有能ね。 あんなちょっとの時間で、私を受け止めてくれるなんて」 キュルケの言葉にルイズは、ちょっとだけムッとした。 確かに助けたのはホワイトスネイクだが、そうなるように位置やタイミングを合わせたのは、自分だからだ。 自分が行った行為に対する正当な賛美が無いと機嫌が悪くなる所は、まだ子供なルイズであるが、物事の切り替えの早さは、すでに他の人間と比べて特出するにまで至っている。 「それじゃ、ちょっと、あいつをとっちめて来るわね」 杖の矛先をギトーへと向けるルイズに、キュルケは、にんまりと笑った。 「手加減ぐらいしてあげなさいよ」 「あら、目上の人に手心を加えるなんて失礼じゃない?」 ルイズも釣られてニヤリと口元を吊り上げると、制服のポケットから一枚のDISCを取り出し、自分の頭へと差し込む。 巻き添えを食らわないように自分の席へと戻ったキュルケは、タバサに耳打ちをして、学生席を全て風の防護膜で覆う。 万が一の事態に備えた上の行動である。 ギトーは、風の防護膜に素晴らしいと言葉を漏らして、興味深げにタバサの魔法を観察していた。 彼にとって、ルイズなど眼中にすら入っていない。 典型的なメイジの思想を持っている彼にしてみれば、メイジ以外など下等も下等。 魔法を使えないルイズも、ご多分に漏れず下等に分類されている。 そんな事を知ってか知らずか、ルイズは詠唱を完了させると足元の地面を変換させる。 ルイズの魔法に、誰もが、『風』以外の属性を見下しているギトーですら唖然としてしまった。 石造りの床を錬金よって、質量保存の法則とかを強引に無視させ、天井までの大きさを持つ岩にルイズは創り変えたのだ 「先に行っておきますけど、死なないでくださいね?」 気持ち悪いぐらいに優しげな響きを持ったルイズの言葉と共に、その岩がギトーの方へと倒れていく。 もはや、魔法だとかそういう次元の話では無い。 相手は、火の玉でも無ければ氷の矢でも無く、土のゴーレですら無い、ただの岩の塊。 圧倒的な質量で自分に倒れてくる、その塊に必死で魔法をぶつけるギトーであったが、吹き飛ばそうにも、あんな質量の物体を弾き飛ばす事など彼には出来ない。 出来るのは、風によって、倒れてくる時間を引き延ばす事だけである。 「ぐっ、ぐぐ!!」 魔法の連続使用による負荷によって、ギトーは精神が飛びそうになったが、必死に意識を繋ぎとめる。 今、ここで意識を失えば自分の身体は………… その先は、考えたくも無い事柄だった。 「助け―――」 「命乞いなんてみっともないですよ、先生」 醜く、命乞いをしようと声を上げようとしたが、岩の向こう側に居たルイズが、何時の間にかギトーの隣で、チェシャ猫のように耳元まで裂けた笑みを浮かべて立っている。 ギトーは悟った。 こんな笑みを浮かべる者に、命乞いなど意味が無い事を。 そして、後悔した。 自分は、こんな化け物みたいな哂いを浮かべる者に、戦いを挑んでしまったと言う事を。 「うっ、うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 すでに限界は来ていた。その限界を死にたくない一心で騙し続けていたギトーであったが、とうとう魔法の発動が止まり、岩の動きを遅くしていた風が無くなる。すると、岩は凄まじい速度でギトーに倒れこんだ。 ルイズは、その叫び声を、まるでフルオーケストラを聴いているように、うっとりとした顔で耳に刻みながら、タクトの如く杖を振る。 「ぉぉぉぉぉおおおお…………お?」 こつんと、ギトーの頭に石が当たった。 岩がギトーを押しつぶす寸前、ルイズが錬金を解除した為に、元の質量に戻ったのだ。 ルイズは、ギトーの先程までの醜態に満足したのか、何も言わずにキュルケとタバサが座っている席へと戻っていく。 「ちょっとやり過ぎだったんじゃない?」 「あれぐらいなら良い薬よ」 「良薬口に苦し」 席へと戻ったルイズに少し困ったような調子で注意するキュルケと、ルイズの行動を肯定しているのか良く分からない言葉を呟くタバサ。 そんな三人の様子を見ながら、ギトーはふらふらと教室を出て行く。 「やや! どうされました、ミスタ・ギトー、まだ授業中ですぞ!?」 廊下に出ると妙に着飾ったコルベールと鉢合わせたので、授業の代役を頼むと、返事も聞かずにギトーは自室へと戻っていく。 今日は、もう、誰とも話す気にはならなかった。 ケツの穴に氷柱を突っ込まれかのように、おとなくしなってしまったギトーの態度は、『風』を最強と自負していた頃と比べると、見る影も無い程に衰えてしまっていた。 同じ頃、燦々と太陽の光が降り注ぐ中、ご主人様から預かった洗濯物を干している才人は、同じく、洗濯物を干そうとしているシエスタと話し込んでいた。 本来なら生真面目な性格であり、仕事中の雑談などしないシエスタであったが、 才人と一緒の時だけは、どうしても仕事が疎かになり、会話を楽しんでしまう。 それが駄目な事だと理解はしているが、どうしてもそれに『幸福』を感じてしまうシエスタは、それを直そうとは思わなかった。 「へぇ、シエスタの故郷って、そんなに良いところなんだ」 「はい。片田舎ですけど、村の人は優しくて、山には色々な果実が実ってて、ほんと、平穏なところですよ」 二人の会話は、何時の間にか故郷に関する話となっていた。 自分の故郷、タルブ村を事細やかに説明するシエスタに、才人は楽しそうに笑っていたが、不意にシエスタの表情が曇る。 「あれ……どうかした?」 「あっ、いえ……あの、すいません、無神経な事を話して」 申し訳そうに謝るシエスタに、はてと才人は首を傾げた。 一体、今の何処に無神経な事があったと言うのか。 「えっと……なんで、シエスタは俺に謝ってるの?」 疑問をそのまま口にすると、シエスタは益々、身を縮めて悲しそうな顔をする。 正直、グッときた。 「だって……サイトさん……自分の故郷に帰れないのに、私、故郷の話をして……」 シエスタの言葉に、才人は、手をぽんと叩いた。 そうか、確かに帰れない人に、帰れる人間が自慢するのは失礼にあたる行為かもしれないが、特に自分はその事に対して何も感じていない。 「いや、俺、そういうのあんまり気にならないからさ。 むしろ、シエスタが故郷の話を聞かせてくれるのは、凄く楽しいから、もっと聞きたいなぁ、とか思ってるけど」 才人の返答に、シエスタは良かったぁと安堵の溜め息を吐き、豊満な胸をほっと撫で下ろした。 「でも――――――とか思わないんですか?」 「え?」 聞こえなかった訳では無い。 ただ、どうしてかその単語が脳内で理解できなかったので、才人はもう一度聞き返す。 シエスタは、不思議そうに先程と同じ内容を繰り返した。 「ですから、故郷に帰りたいとか思わないんですか?」 「――――――――――――あっ」 帰りたい――――――才人は、自分の中に在り得なかった、その発想に愕然とした。 思えば、異世界である此処に迷い込み、シエスタの曽祖父が自分と同じ世界の人間かも知れないと聞かされた時でも、 自分の頭に『帰る』と言う考えは浮かばなかった。 何故ならその考えは………………無駄だから? 「サイトさん?」 「あっ……れ?……」 シエスタの怪訝そうな声に、今まで考えていた事柄が思い出せなくなる。 「えっと……何の話だっけ……あぁ、そうだ、シエスタの故郷の話だったっけ?」 何処と無く不自然な顔をした才人に、シエスタは何も言わず、心配そうな視線を向けてくる。 才人は、自分の中に何か釈然としないものがあるのを感じながら、それについて考える事を放棄した。 放棄せざるをえなかった 「そういえば、前、聞かせてくれたけど、シエスタの故郷に秘宝みたいなのがあるとか言ってたよね? それって、どんなものなの?」 才人の何事も無かったかのような態度に、シエスタは何かを言おうとしたが、軽く頭を振ってから質問に答える。 「うちの曾御爺ちゃんが残したモノなんですけど……その『悪魔の牙』って―――」 「あっ、シエシエ、見つけた~!」 シエスタの口から、なんだか物騒な単語が出るのと同時に、シエスタと同じメイド服に身を包んだ少女が、才人とシエスタの近くまで走ってきた。 「どうしたんですか、そんなに急いで?」 同僚の慌しい雰囲気に、シエスタが尋ねると帰ってきた答えは意外なモノであった。 「王女様! アンリエッタ王女様が此処に来るんだって!!」 メイドが息を切らしながら伝えた内容に、才人とシエスタはお互いの顔を見合わせた。 四頭のユニコーンに引かれた特別製の馬車が、魔法学院の正門を通過し、姿を現すと、王女の到着を今か今かと待ち侘びていた生徒達は、一斉に杖を掲げた。 件の三人組も、他の生徒達と同じように杖を掲げていたが、心情は他の生徒とは若干違いがあった。 キュルケは、清楚で穏やかな王女よりも自分の方が綺麗じゃないかと詰まらなそうな顔をしていた。 タバサは、トリステインの王女自体にそこまで興味が無かったので、杖を掲げているだけで何も考えていない。 強いて言うならば、今日の晩餐は、王女が来たお陰で豪勢になると考えていた。 ルイズは、何か……遠い何かを見るような目でアンリエッタを見つめていた。 「思ウ所ガアルト言ッタ顔ダナ」 「別に……時間の流れって、無情って思っただけよ」 隣に立つホワイトスネイクの声に、返答したルイズは、馬車が見えなくなると同時に部屋へと戻る為に、踵を返した。 今のアンリエッタに、昔のような、見ると安心するような笑みは無かった。 彼女の顔にあったのは、張り付いたかのような作り笑いのみ。 幼少のみぎりに共に遊んだ少女は、あそこには居なかった。 あそこには、ただの王女が居るだけ。 「ほんと……無情ね」 ぽつりと、誰に言うでもなく呟いた言葉にホワイトスネイクは何も言わずに、ルイズの後に続くのだった。 その夜、夢と同じような赤色の月が光を提供する部屋の中で、ルイズは熱心にホワイトスネイクと会話するタバサを見ていた。 夜分遅いと言うのに、部屋に留まる蒼髪の少女にルイズは、頑張るものねぇ、と呟く。 「挑戦」 一通りホワイトスネイクとの会話を終え、手に持っていた一枚のDISCをタバサは、何の躊躇いもなくDISCを挿し込み―――案の定苦しみ始めた。 「はぁ……ホワイトスネイク」 落胆したかのようなルイズの声は、もう三度目だ。 ホワイトスネイクは、その声に反応し、これもまた三度目となるDISCの強制排除を実行する。 「……失敗」 自分の頭から抜き取られたDISCを渡されながら、苦々しげに呟くタバサだったが、何処と無く声に覇気が感じられない。 「今日ハココマデダ。ソロソロ、精神力ガ限界ダロウ」 ホワイトスネイクの言葉に頷くタバサは、ルイズに一礼をしてから、よろよろとおぼつかない足取りで部屋から出て行こうと扉に手を掛け、掴まれた。 「そんな危なっかしい歩き方しか出来ないのに、部屋を追い出したんじゃ、私がキュルケに叱られるわ。 少し、休んでいきなさいよ」 語尾を強めるルイズに、タバサは思わず頷いてしまう。 そのまま勧められるままに、テーブルの椅子に座るタバサだが、この申し出はありがたい。 正直、眩暈と吐き気によって気分が最悪で、部屋まで歩けるか分からなかったからだ。 「でも、あんたも頑張るわよね……初日から、こんなに気合入れるなんて」 「…………」 「まぁ、『力』を使いこなせるようになれば、便利だから頑張るのは分かるけどね」 あふ、と欠伸をして、眠たげにベッドに横になるルイズを見るタバサの瞳は、何時も通りの無感動を映している。 「相変わらず、人間味の無い眼をしているわね、あんた」 「自覚は無い」 「でしょうね。そんな眼、自覚してやってるとしたら、相当、性質が悪い奴だから」 タバサの体調が回復するまで、取り留めの無い話を振っていたルイズであったが、扉のノック音が部屋に響くと同時に、半分閉じかけていた目を強制的に開かせ、扉の方へと視線を向けた。 始めに長く二回、その後、短く三回ノックされたのを確認してから、ルイズは立ち上がり、扉を開けた。 扉を開けると、そこには黒頭巾を被った少女が、頭巾と同じ色のマントを羽織って立っていた。 「まさか……」 頭巾越しに分かる少女の顔立ちに、ルイズは驚きからか、言葉を漏らす。 少女は、ルイズの言葉に反応するように部屋へと入り、扉を閉めてから杖を振るった。 ホワイトスネイクが警戒の色を濃くし、何時でも少女の頭蓋を砕ける位置に立っている事に気がついたタバサは、声を掛ける。 「魔法での仕掛けが無いか確認しただけ」 その説明に、頭巾の少女は頷きながら頭に被った布を取り去る。 「驚いた」 本当に驚いているのか、激しく疑う程に単調に呟かれたタバサの言葉は、頭巾を取り去った少女―――アンリエッタ王女へと向けられたものだった。 「姫殿下」 アンリエッタ王女の眼前に居たルイズ、恭しく膝をついた。 そこに、タバサは違和感を感じた。 貴族たる事を、絶対として扱っているルイズにしては珍しく、その仕草に何処と無く不自然さが付き纏っていたからだ。 「あっ、ほら、あんたもさっさと―――」 「良いのよ、ルイズ。貴方のお友達なら、私にとってもお友達だもの。 ルイズも、ほら、立ち上がって。友達に対して膝をつく人なんて居ないでしょう?」 優しげであり、母親に抱かれるような抱擁感を覚えさせる声に、タバサは思わず息を呑む。 なるほど、確かに王女と言うだけはある。 風格と仕草、それに何者をも癒すかのような声には、カリスマに満ち溢れていた。 普段から、トリステインの王族は執政者としては他の王族に格段に劣っていると聞き及んでいたタバサは、よくそれで国が動いていると思っていたが、なるほど、このカリスマは、王族としては一流だ。 そこまで考えて、不意にタバサの顔に影が落ちた。 それは如何なる思考の果てなのか、無感動を歌うはずの彼女の瞳は、その時ばかりは揺れに揺れていた。 幸い、昔話に花を咲かせている、ルイズとアンリエッタは気付かなく、気付いたホワイトスネイクも別に声を掛ける義理も無いので放っておいた為に、彼女の思いが外に出る事は無かった。 「あの頃は……本当に楽しかったわね、ルイズ」 昔話が一頻り済んだ時に、アンリエッタはぽつりと懐かしむように呟いた。 「えぇ、本当に……」 それに対して相槌を打つルイズは、今朝見たアンリエッタと、今のアンリエッタの違いに内心、物凄く驚いていた。 あの時は、作り笑いを浮かべ、民に対して手を振るうだけの人間になってしまったと思っていたが、今、こうして目の前で話すと、昔のままのアンリエッタが存在している。 (人間って、凄く便利な生き物なのね) (何ヲ今更。人ハ、誰彼モ欺イテ生キテイケル、唯一ノ生キ物ダゾ?) 呆れたようなニュアンスを含んだホワイトスネイクからの返答に、そうなのかしら、と思いながら、ルイズはアンリエッタの言葉に返答していく。 だが、話の合間に溜め息を吐き続けるアンリエッタに、ルイズは眉を顰めた。 タバサに顔を向けると、彼女もまたルイズと同じ結論なのか首を縦に振る。 「あの……姫様、どうかなさったんですか?」 「えっ?」 「先程から溜め息ばかりを……何か、悩み事があるのでは?」 疑問系で聞いたルイズだったが、アンリエッタに何か悩み事が存在する事は確信していた。 思えば、もう何年も会っていない友人に会いに来て昔の話をしたのも、恐らくはその悩みで磨耗した気を紛らわす為だったのだろう。 「あぁ、ルイズ……やはり、貴方には分かってしまうのね。昔から友達である貴方には……」 誰でもあんなに溜め息を吐けば分かると言うものだが、それに突っ込むものは居ない。 ともあれ、アンリエッタは、眼を真っ直ぐルイズへと向けようとしたが、その前に、椅子に座っているタバサへと視線が逸れた。 「すいません。この話は国の重要事項であり、信頼の置ける人物にしか……」 「分かった」 申し訳無さそうに述べるアンリエッタに、タバサは立ち上がり、一礼してから部屋の扉に手を掛ける。 調子の悪さも、きちんと歩けるぐらいには回復していた。 「じゃあね、また明日……かしら」 後ろから掛けられたルイズの言葉に、振り返らずに頷いたタバサは、服のポケットに入っているDISCの重さを確かめながら、部屋を後にした。 「これで、今、この部屋に居るのは、私と私の使い魔のみ……話していただけますか、姫様」 タバサが完全に遠のいたのを確認してから、ルイズがそう言うと、アンリエッタは重々しく頷き口を開いた。 「そうですね…………では、話しましょう。私が、夜も眠れぬ程に悩む事柄を―――」 憂いを張り付かせ、笑みが掻き消えたアンリエッタの表情に、今更ながら、厄介事に巻き込まれる事になると気が付いたルイズであった。 第十話 後編 戻る 第11.4話
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/377.html
ルイズはベッドの中で夢を見ていた。 トリステイン魔法学院から馬で三日ほどの距離、生まれ故郷での夢だった。 幼い頃のいルイズは屋敷の中庭を逃げ周り、植え込みの陰に隠れて、追っ手をやり過ごす。 ルイズは出来のいい姉たちと比較されては、物覚えが悪いと叱られていたのだ。 「まったく、ルイズお嬢様にも困ったものだねえ」 「上の二人はあんなに素晴らしいメイジなのに……」 幼い頃のルイズは、いつもこうやって屈辱を受けていた。 召使いたちですら、自分が聞いていないと思って、こんな事を言う。 魔法が使えないのは事実だが、召使いにまで馬鹿にされるのが悔しくて仕方がなかった。 ルイズは植え込みの中を移動し、あまり人の寄りつかない中庭に移動した。 中庭には池があり、そこには小舟が浮かんでいる。ルイズは小舟に乗り込んで池の真ん中まで移動した。 叱られたルイズはいつもここに逃げ込む。そして、誰かがルイズの元を訪れるのだ。 「泣いているのかい? ルイズ」 「子爵さま…」 幼いルイズは慌てて顔を上げたが、すぐに顔を隠した。ルイズの元にやってきたのは、憧れの人なのだ。 泣き顔を見られてしまうのはいくら何でも恥ずかしい。 「今日はきみのお父上に呼ばれたのさ」 憧れの人は、幼いルイズを抱き上げようとする。が、突然憧れの人との距離が離れた。 「子爵さま!」 驚いて声を上げるルイズ。 夢の中でルイズは、他の誰かに抱き上げられてしまったのだ。 夢の中で子爵は、ルイズが誰かに抱き上げられているのに、何も言わない。 笑顔一つ崩れることがなかった。ルイズはその表情に、一抹の不安を覚えた。 ルイズが自分を抱きかかえている人は誰なのか見上げる ルイズを抱き上げているのは、どこかで見たことのある銀色… いや、白金に輝く筋骨隆々とした男だった。 ルイズを抱き上げた彼は、まるで、迫り来る敵を警戒するかのように、ルイズの憧れの人を見ていた。 さて、ルイズが不可解な夢から目覚めて、欠伸をしている頃、オールド・オスマンの秘書であるミス・ロングビルは、宝物庫の状態を調査していた。 宝物庫は、壁も扉もスクウェアメイジによる『固定化』の魔法がかけられており、トライアングルクラスのメイジではまったく歯が立たない。 それどころか、中にあるもう一枚の扉は、スクウェアメイジでも一人では破ることも出来ないだろう。 この宝物庫は国家の宝物もいくつか預かっているため、最重要の宝物が収納された奥の扉は、スクウェアメイジが複数人…おそらく五人以上で固定化の魔法を掛けられている。 教師のコルベールは、物理的な力を使えば破壊することも不可能ではないと言っていたが、『土くれのフーケ』が作り出すゴーレムが力づくで殴っても、破ることが不可能なのは明らかだった。 ふう、とため息をついたロングビルは、宝物庫の扉を小突く。 この中には、国中の貴族が驚くようなお宝が沢山眠っている。 それを盗み出すことが出来れば、国中の貴族はおろか王族にも一泡吹かせられるだろう。 オールド・オスマンの秘書にしては、危険すぎる思考を巡らせるロングビル。 「おい」 そこに、突然声を掛けられた。 驚いて振り向くと、そこには黒マントをまとった長身の人物が立っていた。 薄暗い宝物庫の中で、白い仮面に覆われて顔の見えぬ男に、突然声を掛けられたのだから驚く。 その上マントの中から、メイジの証である魔法の杖が突き出ているのが見えた。 「だ、誰かしら?仮面を被ったお客さんなんて、珍しいですわね」 仮面を被った男、声の調子からして男だろう。そいつはわざとらしくサイレントの魔法を唱えると、こう言った。 「『土くれ』だな?」 「………」 警戒するロングビルに、その男は両手を開き、敵意がないことを示した。 「話をしにきた」 「は、話? 何の用でしょうか。私はただの秘書ですわ」 「マチルダ・オブ・サウスゴータ」 ロングビルの顔が真っ青になる。焦りを顔に出してはいけない。そう言い聞かせたが、体が言うことを聞かない。 心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。 しばらくの静寂の後、男は小声で 「再びアルビオンに仕える気はないかね?」 と言った。 ルイズは、怖いと評判の教師、ミスタ・ギトーの授業を受けていた。 シュヴルーズ先生やコルベール先生が教室に入ってきても、すぐには静かにならない。 しかしこの先生は別だ。オスマン氏にも『君は怒りっぽくていかん』と言われる程である。 疾風のギトーという二つ名を持つその教師は、長い黒髪と黒いマントを特徴とする。 ハッキリ言って不気味だ。 「最強の系統は知っているかね? ミス・ツェルプストー」 「『虚無』じゃないんですか?」 「伝説の話をしているわけではない。現実的な答えを聞いてるんだ」 このように、いちいち引っかかる言い方をする。 生徒からの人気がないのも仕方がない。特にキュルケはこの教師を嫌っていた。 「火に決まってますわ。すべてを燃やしつくせるのは、炎と情熱…」 キュルケの言葉を遮るかのように、ギトーは杖を抜いて言い放つ。 「残念ながらそうではない。この私にきみの得意な魔法をぶつけてきたまえ」 ギトーはキュルケを挑発するように言う。そこまでされて黙っていられるキュルケではない。全力でぶつけるのつもりでキュルケは呪文を詠唱する。 掌の上に現れた小さな炎が、直径一メイル(m)ほどの大きさになるのに時間はかからなかった。 それを見た生徒達は慌てて机の下に批難し、それを合図にしてキュルケは魔法を放った。 しかしギトーは剣を振るかのように杖を振り、風邪の魔法を放ち炎の玉を霧散させ、キュルケをも吹き飛ばした。 「諸君、風が最強たる理由を教えよう。風は偏在し、すべてを薙ぎ払う。試したことはないが、『虚無』の魔法でも吹き飛ばすことが可能だろう。それが風の魔法だ」 生徒達は机の下から出て、席に座り直す。キュルケも立ち上がり、不満そうにしながらも席に着いた。 「でも、ゼロのルイズなら…」 少々太り気味の生徒、風上のマルコリヌが、ぼそっと呟いた。 それを聞いたギトーは眉をひそめる。 マルコリヌはギョっとしたが、ギトーは眉をひそめたままルイズを見たので、マルコリヌはほっと胸をなで下ろした。 しかし、ルイズの方を見ると、ルイズは明らかな殺意を持った目でマルコリヌを見ていた。 その目つきに驚いたマルコリヌは、ルイズからの『爆破予告』を受けた気がして、失神した。 ギトーの視線がルイズから外れ、教室の扉に向けられると、ギトーは軽く杖を振った。 開かれた扉の向こうで、オールド・オスマンの秘書である、ミス・ロングビルが少し驚いたような表情で立っていた。 ロングビルが「失礼します」と言いながら教室に入ろうとすると、ギトーが「授業中です」と言って咎めた。 「学院長からの伝言をお伝えします。ミス・ヴァリエール、この間の件について、至急事情を聞きたいとの事です。 至急学院長室に来てくださるようお願いします」 「は、はい」 ルイズは内心で、助かったと思いつつ、急いで教室を離れるのだった。 「失礼します」 「おお、ミス・ヴァリエール、待っておったぞ。早速じゃが…」 オールド・オスマンは、ルイズが学院長室に入り扉を閉めると、すぐに扉の鍵を閉める呪文を唱え、次に部屋の音を外に漏らさない呪文、最後にルイズの体にマジックアイテムが仕掛けられていないか探知する呪文を唱えた。 その真剣さにルイズは驚き、硬直していたが、すぐに気を取り直して姿勢を正した。 「ミス・ヴァリエール、まずは謝らせてもらう。事情を聞くというのは嘘じゃ」 ルイズは黙ってそれを聞いた。 「火急の用、それも密命じゃ。今すぐに厨房脇の倉庫から馬車に乗り込んでもらう。食材を調達する馬車なので窮屈じゃが我慢してくれ。馬車には使用人の服が準備されておるので移動中に着替えて、その後は指示を待つんじゃ」 ルイズは驚いた。平民に変装して移動するなんて、まるで命を狙われた没落貴族だ。 しかし、更に驚いたのは、オールド・オスマンの机の上にある一枚の書状だった。 「アンリエッタ姫殿下直々の花押じゃ。この密命は確かに伝えたぞい」 オールド・オスマンは、火の呪文を唱え、そのばで書状を燃やした。 書状を燃やすという行為は、恐るべき不敬であるが、オスマン氏の真剣な表情が『なりふり構わない状態』であることを告げていた。 ルイズはオスマン氏に一礼すると、学院長室を出て、急いで厨房に向かった。 オスマン氏は、学院の生徒が王宮の都合で使われることが好きではない。ふぅ、とため息をつくと立ち上がり、神妙な面持ちで窓の外を見上げた。 ガタガタ、ガタガタと、揺れる馬車の中。 馬車は幌が被さり外から見ることは出来ない。 トリスティン魔法学院の所属であることを示す紋章すら、この馬車には一つも描かれていなかった。 馬車の外で手綱を握っているのは、料理長のマルトーで、中にはルイズとシエスタが乗っていた。 シエスタはルイズの着替えを手伝っていた。マルトーの耳にはルイズとシエスタが楽しそうに着替える声が聞こえてくる。 マルトーはそれを訝しく思っていたが、ルイズの着替が終わりシエスタと手綱を交換すると、いつもシエスタが話す『一風変わった貴族』ルイズのいる馬車の中に入っていった。 ルイズはシエスタが手綱を扱えることに驚いていた。馬に乗るのならまだしも、二頭の馬を操って馬車を引く経験もあるとは思わなかったからだ。 「シエスタって、何でも出来るのかな」 そう呟くルイズに、マルトーが言った。 「貴族様は魔法をお使いになるじゃありませんか」 マルトーは貴族に対してあまり良い印象を持っていない。それどころか毛嫌いしている節もあった。 しかし、シエスタから話を聞いている『ルイズ』の存在は、マルトーにとっても気になる存在だったのだ。 万能の魔法を使い、平民を動物と同列に扱うのが貴族だと思っていたマルトーは、メイジとは思えないルイズの発言に驚いたのだ。 マルトーはルイズのあだ名を思い出し、あっ、と小さな声を上げた。 『ゼロのルイズ』に対して、今の発言は喧嘩を売っているようなモノだ。 マルトーは貴族嫌いではあるが、正面から喧嘩を売るようなマネをして殺されるのは、いくら何でも遠慮しておきたかった。 だが、ルイズの言葉は、自分を責めるモノではなかった。それがマルトーを更に驚かせる。 「塩を錬金できるメイジは沢山居るわ。でも、美味しい食事は錬金できないもの」 この言葉はカトレアからの受け売りだった。 体が弱く、外に出られなかったカトレアに、母親は旅先で作らせたドレスや調度品を土産として渡し、寂しさを紛らわせようとしていた。 しかし、ある日ルイズにこんな事を言ったのだ。 錬金によって、精巧な黄金のオブジェを作り出すメイジもこの世には存在する。 しかし、黄金を加工して糸を作り、見事なカーテンやドレスを縫える職人技は、その微細さ故にスクウェアクラスのメイジでもなかなか再現できない。 どんなに魔法が優れていても、私は外でルイズのように遊ぶことができない。 本当に魔法は、メイジは、貴族は優れているのだろうか…と。 馬車を走らせるシエスタの後ろ姿を見て、カトレアが一番欲しいはずの『健康』を備えたその姿が、とてもまぶしく感じれた。 マルトーは、驚き、感動し、少し疑った。 ルイズの言葉が、いつも自分が言っている言葉に似ていたからだ。 『料理は食材を美味しくする魔法なんだ』 マルトーはそう言って、自分の料理を自慢していた。 しかし、貴族に心を許せないのは事実。シエスタがルイズに利用されるのではないかと危惧していたのも事実だ。 マルトーは、目の前にいる貴族、『ルイズ』を信用して良いのか、判断できなかった。 馬車が予定の場所に到着すると、そこには王宮の雑務その他をこなすメイド達が使う、小さな馬車が待っていた。 その馬車の手綱を引くメイドは、ルイズにこちらに乗り換えるように告げた。 シエスタに「ありがと」と小声で礼を言って、馬車を乗り換えたルイズ。 馬車の中で彼女を待っていたのは、懐かしい人の抱擁だった。 「久しぶりだ、ルイズ! 僕のルイズ!」 「…ワ、ワルド様…ワルド様!?」 憧れの人に抱きかかえられたルイズは、夢のような再開の喜びに酔いしれていた。 今朝見た夢を忘れてしまうほどに。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/715.html
ラ・ロシェールで一番上等な宿『女神の杵』 この宿に泊まったルイズ達は、一階の酒場で適当な料理をつまんでいた。 今後の予定などを話していたが、ロングビルはラ・ロシェールにとどまると聞いて、ギーシュが何故ここに止まるのかと質問した。 「私は、ミス・ヴァリエール、そしてワルド子爵が帰還されない場合の連絡役ですから」 ロングビルの答えに「なるほど」と頷いていると、そこにワルドが戻ってきた。 ワルドはアルビオンに向かう船を調達するために出かけていたのだ。 席に着いたワルドから、アルビオンにわたる船は明後日になると告げられる。 「あたしはアルビオンに行ったことがないからわかんないけど、何で明日は船が出ないの?」 キュルケのふとした疑問にワルドが答える。 「明日の夜は月が重なるだろう、『スヴェル』の月夜だ。アルビオンに行くには距離がある。その翌日の朝ならアルビオンがラ・ロシェールに近づくんだ」 キュルケは、タバサのシルフィードに乗せて貰えば良いと考えたが、シルフィードに無理をさせるのは少し気が引ける、おとなしくワルドの言葉に従うことにした。 ルイズも同じ事を考えていたが、本来ならお忍びの任務、タバサの力を借りるのはあまり良くないと思い、何も言わなかった。 ワルドが席を離れると、あらかじめ預かっていた鍵を机の上に置く。 「さて…そろそろ寝るとしようか。部屋は取ってある、ルイズと私は相部屋だ、後は…」 それを聞いたルイズは顔を真っ赤にする。 「そんな、ダメよ! ままままだ私たち結婚してる訳じゃないし、それに…」 「婚約者だからな、当然だろう?それに…大事な話があるんだ、二人きりで話をしたい」 そう言って、ワルドはルイズを連れて部屋へと入っていく。 後に残された四人はしばらく悩んだが、ギーシュは一人、他の三人は相部屋ということで落ち着いた。 ルイズとワルドが入った部屋は、この宿でもっとも上等な部屋であり、そのつくりは貴族の館の私室のようで、豪華な装飾の割には落ち着いた雰囲気のいい部屋だった。 「きみも腰掛けて、一杯やらないか? ルイズ」 ルイズは言われたままにテーブルに着くと、ワルドが注いだワインを二人で乾杯した、ルイズは恥ずかしさからか、少しうつむいていたが。 「姫殿下から預かった手紙は、きちんと持っているかい?」 ルイズはポケットの上から、アンリエッタの封書を押さえた。 どんな内容なのか具体的に入ってくれなかったが、恋文に似た思いで書いたのだと想像はつく。 ウェールズから返して欲しいという手紙の内容は、もしかしたら…そこまで考えて頭を振った、今はそんなことを考えても仕方がない。 そんなルイズを心配して、ワルドが語りかける。 「不安なのかい? 無事にアルビオンのウェールズ皇太子から、姫殿下の手紙を取り戻せるのかどうか」 「そうね。不安だわ…だけど……」 そこでルイズはハッと気づく、ワルドの後ろに見える、比較的大きな姿見の鏡に、あの青い色の幽霊が浮かんでいたのだ。 ワルドはルイズの視線に気づき、ふと後ろを見る、しかしそこには誰もいない。 鏡にも何も映っていなかった。 「ずいぶん心配しているのだね…大丈夫だよ。きっとうまくいく。なにせ、僕がついているんだから」 「そうね、あなたがいれば、きっと大丈夫よね」 ルイズは落ち着いたフリをして答えるが、内心は焦りがあった。 心の中で誰かが警鐘を鳴らしている、何かがおかしい、何かが引っかかる。 昔、吸血鬼が居た。 その吸血鬼のカリスマ性とも言うべき、人を『恐怖』させ『安心』させる姿。 あの雰囲気に共通する、何かがあるのだ。 いつの間にか、ワルドは遠くを見る目になって、ルイズに語り出した。 ワルドはルイズとの思い出を語り、そして、ルイズの魔法は4大魔法ではなく、別の魔法…すなわち虚無の魔法に最も近いのではないかと言った。 歴史書が好きだったワルドは、始祖ブリミルの魔法についても調べていた、火炎と油による爆発は、火と土の合成だが、単体で爆発を起こせる魔法は存在しないはずだとまで言った。 それが本当の事かどうか分からないが、ルドが自分を評価してくれているのは分かる。 しかし現実味を感じられない、どこか白ける気すらした。 そして… 「この任務が終わったら、僕と結婚しようルイズ」 「え……」 いきなりのプロポーズに、ルイズははっとした顔になった。 先ほど現れた幽霊のことも忘れ、ルイズはワルドの話をじっと聞き続けた。 一方、キュルケ、タバサ、ギーシュの三人は、景気づけと称した一気飲みでロングビルに敗北していた。 翌日、ルイズ達4人は、ラ・ロシェールの町を見て回っていた、ロングビルは一応護衛なのでルイズと行動を共にしている。 ワルドは後学のためにと、ギーシュを連れて桟橋へ行ったが、実際の所ギーシュは体の良い小間使いだろう。 一通りラ・ロシェールを見て回った四人は、『女神の杵』の裏手にある練兵場に来ていた。 「昔はここで修練してたのねー」 キュルケが興味深そうに呟く。 歴史などには興味のなさそうな彼女だが、練兵場の壁は、高位のメイジが固定化をかけたと思われるほどの丈夫さがあった。 そしてその岸壁にも、いくつかの傷や焦げ跡がある。 集団戦と言うよりは、決闘の痕と言うべき傷が、キュルケの心を喜ばせた。 「この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦だったと聞いています」 ロングビルの言葉に、一同が感心する、言われてみれば宿の作りに不思議な点があったと思い出せるからだ。 そういえば…と、キュルケがロングビルを見る。 「ミス・ロングビルはラ・ロシェールに住んでたの?」 ロングビルはこの宿だけではなく、ラ・ロシェールの事に詳しかった。 事実、町を巡って何か分からないことや疑問があれば、ロングビルが説明してくれたのだ。 「いえ、私は…」 「アルビオン訛り」 ロングビルを差し置いてタバサが答えた、その答えでキュルケとルイズが納得する。 アルビオンの貴族ならば、大陸に来る時にこの町を必ず通る、しかし納得したところで別の疑問が出てきた。 なぜルイズと共にアルビオンに同行しないのか? 故郷ならば、地理にも情勢にも詳しいのだろうが、それなのにアルビオンには同行しないと言う。 その答えは三人にとって驚きのものだった、ロングビルはアルビオンの貴族ではなく、アルビオンの貴族だった者、なのだ。 貴族としての立場を剥奪されたメイジ、ある意味、王党派を恨んでいてもおかしくない人物がルイズの護衛をしていることに、三人は大いに驚いた。 「ミス・ロングビル、なんでルイズの護衛なんて引き受けたのかしら?」 キュルケは不信感を隠そうともしない態度で質問する。 「…私は、戦争を防ぐために手伝って欲しいとしか、オールド・オスマンから承っていませんわ、王党派への恨みがないと言えば嘘になりますが、戦争が始まって孤児が増えるのは…もう、見たくはありません」 ロングビルはルイズを見た、ルイズは何か考えるように、うつむいている。 「私からも一つだけ質問させて頂きます、ミス・ヴァリエール…貴方はなぜモット伯の元へ、シエスタを助けに行こうとしたのですか?」 キュルケとタバサもルイズを見た、この二人にしても疑問に思っていたからだ。 「貴族が、一人の平民を贔屓するのは、決して良いことだとは思えません。モット伯は教育と称して少女を嬲り、売買もしていたと判明しましたが…そうでなかったら、どうするおつもりでしたか?」 その質問は、あらかじめ答えが用意されていた。 いや、ルイズ自身が自問自答していたのだ、これは誰からの受け売りでもない、ルイズ自身の答えだった。 「一度でも友人と呼んだ者を見捨てるのが貴族といえるのかしら」 ルイズは、真剣な目でロングビルを見た。 ロングビルは、その視線に思い出す者があった。 そもそもロングビルの一家が貴族の立場を剥奪されたのは、父親がアルビオンの王家に逆らったからだ。 しかし、父は決して後悔などしていない。 王家よりも、自分よりも、何よりも大事な『理念』を守ろうとした父、その視線とうり二つに見えたのだ。 以前のルイズならば、同じ答えを言ったとしても、そこには説得力が無かっただろう。 しかし今のルイズに見える『威厳』と、目の奥に見える『悲しみ』があった。 「貴方は、精神的にも貴族なのね…」 ロングビルの呟きに、ルイズは少しだけ頬を染めた。 「照れてる」 「う、うるさい!」 タバサの言葉に、いっそう顔を真っ赤にしてルイズが怒鳴る。 「ちょっとあんた何格好いいこと言ってるのよ!ゼロのルイズのキャラじゃないわよ!」 「ゼロって言ったわねこの色ぼけ女!」 キュルケのちょっかいで、普段の騒がしさを取り戻した三人。 その三人を見ながら、ロングビルは何かを決心していた。 キュルケと喧嘩しつつも、ルイズの頭の中にはある記憶が浮かんでいた。 シエスタを助けるため、モット伯へと立ち向かう決心を与えた、ある人物の記憶だった。 『なぜ おまえは自分の命の危険を冒してまで わたしを助けた…?』 『さあな…そこんとこだが おれにもようわからん』 なぜ命がけでシエスタを助けに行ったのか、よく分からない。 アンリエッタからのお願いを、命の危険があると知りながら引き受けたのも、よく分からない。 でも、よく分からないままでも、いいじゃないか…。 前へ 目次 次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1111.html
これは[奇妙なルイズ26]の結末でサイトが召喚された場合のものです。 …という訳じゃ。 ヴェストリの広場で召喚された少年は、伝説の使い魔ガンダールヴとして活躍し、トリスティンだけでなく世界を平和に導きおった。 あの当時は「ゼロのルイズ」などと呼ぶのは侮辱じゃったが、今となっては「虚無(ゼロ)のルイズ」は最大級の栄誉じゃ。 土くれのフーケに「破壊の杖」が奪われた時も見事に活躍してくれた、ミス・ロングビルがそれを期に退職してしまったのは残念じゃったがの。 ところで、ちまたで噂になっとる「キャッツアイ」という三人組の義賊のことを知っておるか?一人は赤髪をたなびかせ、一人はエメラルドグリーンの髪、もう一人は水色の髪の少女だそうな。 貴族の立場にあぐらをかいている、ろくでなし共にはいい薬じゃわい。 で、そうそう、虚無のルイズとその使い魔がどうなったか…という話じゃったな。 世界に平和をもたらした後、あの二人はどこかに旅立っていったそうじゃ。 「恩返しをしたい」と言い残してのう… 一節によると遙か東方のロバ・アル・カリイエより更に遠い場所へと、旅立っていったと聞くが…真相は闇の中じゃ。 さあ、これでワシの話はオシマイじゃ、皆も今日はもう寝なさい。 …む?遠見の鏡が… 『こんばんわー!オールド・オスマン先生!』 おお、久しぶりじゃの~、元気じゃったか? 『はい、ニホンの生活にも慣れました、でも聞いて下さいよ、サイトがジョータローと海洋調査に行ってばかりなんです!』 ほほほ、なあに、男は仕事で家族を養わないといかんからのう。 『あ、そうそう、今友達が来てるんです、この前話した空条徐倫、ジョータローの娘さんで…あ、電話!徐倫ちょっとオスマン先生と話してて!』 『ちょっ、いきなり言われたって困るッ……あー、オスマン先生?アタシ、空条徐倫』 おお、君がルイズの恩師の娘さんか、話はよく聞いておるよ。 『えぇと…オスマン先生、あんたもルイズの先生なんだろ?礼を言わせて貰うわ、ルイズとサイトが来なかったら、私も父も死んでいたわ』 ふむ…そちらもなかなか大変な目に遭ったようじゃの。 『まあね、異世界に来ちゃうあの娘には負けるわ、しかも定住するなんて…スピードワゴン財団で戸籍を用意するのが大変だったって愚痴ってたわよ』 迷惑をかけてすまんのぅ 『ちょっと徐倫!すぐ出かけるわよ、準備して!』 『何よ急に』 『サイトとジョータロー、今アマゾンの奥なんですって!もう、今日は夕飯までに帰るって約束してたのに!』 『あの二人は仕方ないわよ、こんな時間じゃ飛行機も出せないし、明日にしなさい』 『駄目よ、転移魔法使ってお弁当届けに行くわよ』 『ハァ!?ルイズあんたクレイジーよ!頭の中虚無ってんじゃないの?』 『大丈夫、サイトとジョータローの元にはいつでも駆けつけるって約束したんだから!準備はいい?転移するわよー』 『ちょっ、待っ、アタシを巻き込むなああああああああああ!』 …まったく、相変わらずにぎやかじゃのう。 そうそう、言い忘れておった。 虚無の使い手がどうなったのか、ワシは知らん。 じゃが、ワシの大切な教え子は、どこか遠くの土地で、楽しく過ごしておるよ。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/982.html
いつもと変わらぬ朝食。 いつもと変わらぬ授業風景。 いつもと変わらぬトリスティン魔法学院。 多くの生徒達にとっては、いつもと変わらぬ日常だった。 ギーシュは疲れていた。 魔法衛士隊隊長、ワルドの裏切りを知り、ギーシュは自分の人を見る目のなさを恥じた。 半裸のミス・ロングビルを連れて帰ってきたので、モンモランシーに問いつめられ、右の頬に紅い紅葉を作った。 更に、数日間の不在は浮気旅行じゃないのかと詰め寄られ、左の頬にこれまた見事な紅葉を作った。 そして傷の癒えたロングビルに礼を言われたのをケティに目撃され、その情報はモンモランシーに伝わり、年増ババァのどこがいいのかと詰め寄られて頭に大きなたんこぶを作っていた。 タバサは不在だった。 実家からの手紙に何が書かれていたのか知らないが、しばらく学校を休むそうだ。 キュルケの話では、こうしてたびたび実家に呼び出されるのだとか。 シルフィードに乗って実家に帰る前、タバサはルイズを心配していた。 キュルケは少し不機嫌だった。 普段通り授業を受けてはいるものの、タバサがいないと調子が出ない。 その上、ゼロとあだ名される生徒の席が、ここ一週間ばかりずっと空席だった。 その席を見ては、時折ため息をつき、つまらなそうにしていた。 シエスタはどこか落ち着かなかった。 いつものように食堂のテーブルクロスを洗濯する。 いつものように食器を洗う、いつものように配膳をする。 しかし、いつもより一人分足りない。 ルイズの姿を探しては、今日も居ないとため息をつく。 ギーシュやキュルケから、ルイズは今実家に帰っていると聞かされたが、それは嘘だと、なんとなく理解できた。 オスマンは相変わらずだった。 職務に復帰したミス・ロングビルの下着の色を、使い魔のネズミを使って調べるだけでは飽き足らない。 復帰祝いと称してロングビルに過激なビキニをプレゼントしたが、練金で瞬時に土くれに変えられてしまったため、いじけていた。 トリスティンの城、そのゲストルームに置かれた豪華なベッドの上に、一人の少女が眠っていた。 眠る少女の体中には包帯が巻かれており、その姿を同じ年頃の少女が見守っていた。 トリスティンの王女アンリエッタである、彼女はベッドの上に眠るルイズに治癒の魔法をかけていた。 「く…」 アンリエッタから苦しそうな息が漏れる。 キュルケ達がシルフィードでトリスティン城に降り立った時、アンリエッタがすぐに駆けつけなければ、ルイズは失血死していたかもしれない。 傷が塞がらないのだ。 出血はかろうじて止まったが、傷口は開いたまま、どんなに治癒の魔法をかけても、治癒の秘薬を用いても効果がなかった。 しかも秘薬の代金は国庫から出すことは出来ない、これはあくまでもアンリエッタが個人的に頼んだ依頼だからだ。 「アンリエッタ、私が代わろう」 「ウェールズ様…」 「アンリエッタ、君には公務がある、王女としての勤めを果たさなければ、ミス・ヴァリエールに笑われてしまうよ」 「………はい」 部屋に入ってきたウェールズは、アンリエッタの隣に座ると、慣れない治癒の呪文を唱え始めた。 一通り魔力が伝わるが、ルイズの身体に反応はない。 「マザリーニ枢機卿は、なかなかの切れ者だね」 「えっ?」 「僕はここでも身を隠すことになるようだ、当分は地下で過ごすことになる」 「そんな!」 「気にすることはない、本来なら私は死んでいたはずだ、ニューカッスル城と秘密港の崩壊で私は死んだと思われているので、 今の私を外交のカードとして利用させて欲しいととハッキリ言ってくれたよ。だが、その方がありがたい」 「………トリスティンの民から、私とマザリーニ枢機卿がなんと呼ばれているか、ご存じでしょうか」 「知っているよ、だが、王とはそうしたものだよ、王の立場にある者が、不用意に不快感をあらわにすると、王の権威を保つため不快感の原因となる要素は排除される。 平民は浴場で、風呂が熱い、ぬるいだのと文句を言えるそうだね、王族がそれをしたら浴室付きの侍女は皆、お役御免になってしまう、王族とは難儀なものだよ」 「私は、自分は操り人形ではないと意地になっておりました、ですから、私はマザリーニに気づかれぬよう、ルイズを利用したのです。私に…私に王女の資格などありませんわ…」 「アンリエッタ、いいかね、ミス・ヴァリエールは最後まで諦めなかった、最後まで…だ、ワルド子爵の裏切りを一番つらく感じていたのは彼女だろう、それでも彼女は君に与えられた任務を諦めなかった、それどころか、逸脱しようとした」 「逸脱…とは?」 「昨日までは、私は仲間達を残して一人生き残ってしまったと、後悔したよ。しかし、生き残ってしまったからには生きている者の勤めを果たさなければならない、ミス・ヴァリエールを恨もうとも思ったが、今で感謝しようと思っている」 「ウェールズ様、死ぬおつもりだったのですか…?」 「私は、皆の前で共に戦おうと宣言したのだよ、おめおめと生き残っている私を見て、天国の彼らはどう思っているのだろうね」 「そんな!ウェールズ様、どうか、もう死ぬなどとおっしゃらないで下さい!」 アンリエッタがウェールズの腕に、しがみつくようにして叫ぶ。 するとウェールズは微笑み、アンリエッタ手に手を重ねて言った。 「私はもう死ぬつもりはないよ、無様でも、部下を裏切ってでも、私は生きてアルビオンの魂を伝えねばならない。でなければ、私は彼女に顔向けできないからね…アンリエッタ、君はどうなのだ?」 「わたくし…ですか?わたくしは…」 アンリエッタはルイズの姿を見た。 包帯だらけで、呼吸も消えてしまいそうなほど細い、このまま治癒を続けても無駄だと王家の侍医は言っていた。つまり絶望的な状態なのだ。 「わたくしは…」 言葉を続けることの出来ないアンリエッタの肩を抱き、ウェールズはアンリエッタを自分へと向き直らせた。 「私は仲間を見殺しにした罪悪感にさいなまれた、だが助けられた以上は生きた王族としての使命を果たさねばならぬ、 彼女を使わせたアンリエッタ、君も彼女を傷つけた罪悪感に苛まれるのであれば、なおさら彼女のためにも君は王女として威厳を示さねばならないだろう… でなければ、私は彼女の決意を、無碍にすることになると思う」 「ウェールズ様…」 アンリエッタが何か言いかけたとき、扉を軽く叩く音が聞こえた。 「姫殿下、マザリーニでございます」 「入りなさい」 マザリーニは部屋にはいると、アンリエッタに一礼した。 「殿下、どうか公務にも顔をお出し下さい、それと、もはやミス・ヴァリエールを治癒して七日が過ぎました、どうかお考えを…」 「…わかりました、すぐにそちらに戻ります、下がりなさい」 アンリエッタはルイズの顔を見る、ルイズは相変わらず死んだように眠っていた。 マザリーニの言った『お考えを』というのは、ルイズへの治癒を打ち切るという事だ。 アンリエッタは、心の中でルイズに謝った。 「ウェールズ様、ルイズに、最後に、治癒をかけてあげたいのです、どうか、一緒に…」 「喜んで」 そう言うと二人は息を合わせ、同時に呪文を唱え始めた。 水のトライアングルメイジと、風のトライアングルメイジが、二つの魔法を一つにするという強力な秘術、王家にしか伝わらないこの技術をヘキサゴンスペルという。 本来ならヘキサゴンスペルは攻撃に利用するのだが、今回は慣れない治癒の魔法を二人で唱えた。 奇跡を願って、最後の可能性にかけたのだ。 そのころルイズは、暗闇の中にいた。 暗闇の中で、ルイズは承太郎に詰め寄られていた。 ウェールズを連れて帰る決意は、アルビオン貴族派の矛先をトリスティンに向けさせるという大きな代償を払う事となる。 それを知っておきながら、なぜルイズがウェールズを助けようとしたのかを、問いつめていたのだ。 「…難しいから、何なのよ、これで戦争が始まっっても、私には責任なんか取りようがないわよ、でも、でも! あんなところで死んでいい人じゃないわ!」 ルイズの声が、漆黒の闇に響く。 『”覚悟”…いや、ワガママだな』 「何とでも言いなさいよ、それに、ウェールズ殿下が誇り高きアルビオンの魂を伝えたいと言うのなら、死ぬべきじゃないわ」 聴きようによっては、自暴自棄になった人間の台詞にも聞こえた。 『俺のいた世界には、”武士道”という本がある』 「ブシド-?」 『この世界風に言えば、貴族道とでも言ったところか…その本には、確かこんなことが書かれていた』 『武士道という花が散っても その香りは残り 人々の人生を豊かにし続けるだろう』 『ウェールズはその”残り香”になろうとした、それを邪魔するのは、ウェールズに対する冒涜じゃないのか』 「ち、違うわよ!」 『どう違う!』 「………わ、私は…私は!」 言葉を続けることが出来ず、ルイズは黙ってしまった。 『ルイズ、俺は”正しい答え”なんか期待しちゃいない、”お前の答え”が聴きたい』 しばらくルイズは黙っていたが、意を決して、口を開いた。 「アンの…アンリエッタの恋人を助けられないなんて、友達失格じゃない。私は王女から密命を受けたんじゃないわ、友達の頼みを聞いたのよ、だから、よけいなお節介をしたのよ!」 承太郎は笑みを浮かべた。 『やれやれ、やっと言ったか』 「へ?」 『貴族としてとか、貴族らしいとか、そんなのは言い訳に過ぎない、ルイズ、お前は『友達の頼みに応じた』それこそ命がけでな、それを覚悟して自覚しているのなら、俺が言うことも無い』 「フン!何よ分かったような口聞いて、使い魔のくせに…偉そうに…」 『俺はもうアドバイスできなくなる…だから、その覚悟だけは聞いておきたかった』 「………えっ?」 承太郎の背後からスタープラチナが現れる、すると、周囲の暗闇がはれ、足下にルイズが見えた。 すぐ傍らにはアンリエッタとウェールズが、二人で治癒の魔法を詠唱している。 「これ、私? え、私、どうなってるの?」 驚いているルイズを無視して、スタープラチナの手がルイズの頭に入り、そして、銀色の円盤をゆっくりと引き出し始めた。 「これ…貴方の、ディスクって奴よね」 『ああ』 「どうして取り出すの?」 『ワルドとの戦いで受けた傷は、俺が引き受けると言ったはずだ』 「でも、秘薬とか魔法で治せばいいじゃない」 『それは無理だな、幽霊のような状態で見ていたが、俺がいると魔法がかからないようだな』 話していくうちにも、円盤がゆっくりと引き出されていく、半分ほど姿を見せたところで、ビシッ、と音を立てて円盤にひびが入った。 『水の魔法でも、魂までは直せないようだ』 ビシビシと音を立てて円盤に日々が広がっていく、それと同時に、承太郎の姿にもヒビが入っていった。 「ちょっと!ねえ、やめてよ 郎!… ? あれ…?」 『これからお前は目が覚める、目が覚めたら俺のことは忘れてしまうだろう』 「待って!そんな、こんな急に、駄目よ!私はまだ、貴方が居ないと、戦えない!」 『俺はお前の記憶を操作した覚えはない、ただ、夢を見せただけだ。ルイズ、お前は俺の記憶を見ただけであれだけの『覚悟』を決めて、成長した、自分に自信を持て』 「イヤだ!忘れたくない!わすれたく…」 ルイズの魂が肉体に引き寄せられると、承太郎の姿はそれにあわせてゆっくり消えていく。 『………もし、娘に会ったら、その時は助けてやってくれ』 そうして、ルイズの意識は闇に落ちた。 「げほっ」 アンリエッタの目の前で、ルイズが咳き込む。 「ルイズ…!」 アンリエッタは詠唱を止めて、ルイズの顔をのぞき込んだ。 「げほっ…はぁ…あ、アンリエッタ姫さま…おはようございます」 「ルイズ…ルイズ!」 「ま、待ちたまえ!」 ルイズに飛びつこうとしたアンリエッタを、ウェールズは慌てて押さえた。 「ウェールズ殿下、私なら、大丈夫です、ほら」 そう言ってルイズが頭の包帯を取ると、顔や頬につけられていた傷は綺麗に治っているのが見えた。 それを見たウェールズはアンリエッタの肩から手を離した、アンリエッタはルイズに抱きつくと、まるで子供のように泣きじゃくった。 ルイズは、アンリエッタを抱きしめながら、何か大事な夢を見ていたはずだと考えたが、とりあえず今はアンリエッタに抱きしめ返すことが先だ。 外した包帯の中から、ヒビの入った円盤が、きらりと輝いた。 To Be Contined → 前へ 目次 次へ
https://w.atwiki.jp/bizarre/pages/24.html
(ココは・・・どこだ?俺は確かサンジョルジョの教会に・・・・) 男は、気が付くとカフェのような場所の椅子に腰掛けていた。だが、その店には誰も居ない。男の名は、ブローノ・ブチャラティ。 「そうか・・・オレはアラキとか言う男に『殺し合い』に参加させられているのだな。ジョルノやナランチャ・・・暗殺チームにトリッシュもいる・・・」 彼は先ず、仲間を助ける事が先決だと考える。彼は立ち上がると直ぐにカフェを出ようとした。 「待ってくださいッ!」だが、突然カフェの奥の席の方からから声がした。男の声だ。 「誰だッ!どこにいる!」ブチャラティは直ぐに言葉を返した。だが、奇妙な事に奥の方に人影のような者は見えない。ブチャラティはすぐに声がしたテーブルの方向へと向かった。 テーブルの上には、誰かが使った形跡などのない、ピカピカのティーカップしかなく、いたって不審な点はない。もちろんテーブルの下にも誰も隠れてはいない。 「・・・?気のせいだったか?」何にせよブチャラティは、敵が直ぐ近くに潜んでいる事を警戒し、直ぐそこを離れる事にした。 「待ってくださいッ!ブローノ・ブチャラティさん!」ブチャラティは再び後ろをふり向いた。だが、やはりそこにあるのはティーカップだけだった。 ブチャラティはティーカップを手に取ってみた。「・・・・ただのティーカップだ・・・不審な点はない・・・」ブチャラティはティーカップを再びテーブルに置くと、腹の底から搾り出すようにこう言った。 「この店の中に潜んでいる者に告ぐッ!単刀直入に言おうッ 敵意がないのならば今すぐ出て来い・・・オレとしてもなるべく戦いは避けたい・・・命を奪う事だけはしないッ!」 その言葉に対し、再び店の奥から声がした。 「そちらに敵意はないんですか?」その言葉に対しブチャラティは、「言った通りだ!おとなしく出てくれば攻撃はしないッ!」 その返答に対し、男は尚も質問を返してきた。「それを今ココで私を襲わないと言う事を確証付けられますか?」 男の少々しつこい質問にブチャラティは、怒る事はなく、こう返答した。「分かった。アラキから支給されたものは・・・捨てるよ。」そう言って彼は、支給品の入ったデイパックを足元に置き、足で蹴って遠ざけた。 「コレで信用してもらえたか?」ブチャラティがそう言うと、店の奥から声がした。「分かりました。姿を現します。」 次の瞬間、突然ティーカップが中に浮かび上がった。そして、ティーカップがドンドン形状を変化させ、長髪の男へと変貌した。 「お前は・・・そこにいたティーカップがお前だったのかッ!」ブチャラティは突然の事に驚愕した。 「驚かせてスイマセン。私の名は『ヌ・ミキタカゾ・ンシ』といいます 年齢は216歳です職業は『宇宙船のパイロット』趣味は『動物を飼うこと』です」 男は、ミキタカと名乗った、ブチャラティはスタンドの能力よりも、彼の突拍子もない自己紹介に言葉を失った。 「・・・・・とにかくだッ!もう外は暗いし、ココで散々物音を立てた・・・すぐにこの場を離れないとこの『殺し合い』に乗った奴が来るかも知れん」 ブチャラティの言葉に対し、ミキタカは「わたしも、このゲームに乗ったわけではありません なるべく、死者を出さずにこの島を脱出する方法を考えましょう。」 「あぁ・・・俺の仲間も『殺し合い』に参加させられている・・・そいつらが心配だ 救出に手を貸してくれるな?ヌ・ミキタカゾ・ンシ」 「ええ・・・いいです。ところで、」ミキタカが再び質問を返してきた。 「何だッ!?催しでもしたのか?」 「いえ、違うんです。確かこの店内の厨房にデイパックを置いてきたので取ってくるだけです」ミキタカはそう言って店の厨房へ入り込み、デイパックを持って直ぐに戻ってきた。 【カフェ・ドゥ・マゴ・一日目 深夜】 【あんまりノーマルじゃあないチーム】 【ブローノ・ブチャラティ】 [スタンド] スティッキィ・フィンガーズ [時間軸]:サンジョルジョの教会のエレベーターに乗り込んだ直後 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:支給品一式 (フォーク) [思考]:1)仲間を助ける(トリッシュがスタンドを使える事に気付いていない) 2)なるべく多くの人を救う 3)アラキの打倒 【ヌ・ミキタカゾ・ンシ】 [スタンド] 『アース・アンド・ウィンド・ファイアー』 [時間軸] 鋼田一戦後 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:支給品一式(ポケットティッシュ) [思考]:1)出来るだけ戦わずにやり過ごしたい 2)味方を増やしたい 3)多くの人を救いたい 投下順で読む 前へ 戻る 次へ 時系列順で読む 前へ 戻る 次へ キャラを追って読む ブローノ・ブチャラティ 32 『Oh! That s A Car Chase!!』 ヌ・ミキタカゾ・ンシ 32 『Oh! That s A Car Chase!!』
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1949.html
「私は・・・・・・ゲルマニアの皇帝に嫁ぐ事になりました」 窓の外の赤い月を見るアンリエッタの瞳の色は、悲嘆に染まっている。 それだけで、彼女がこの結婚に対してどう思っているかが、痛い程にルイズは理解できた。 「アルビオンの革命が原因なのですね」 「えぇ、彼ら革命軍―――レコン・キスタは、今にも王家を倒し、国を乗っ取る勢いです。 いいえ、もう、事実上は彼らが乗っ取っていると言っても良いでしょう。 何せ、王国軍はほぼ壊滅状態で、ニューカッスルの城に篭城する事でなんとか生き延びているらしいですから」 敗北は時間の問題。 そして、その時間は限りなく短い。 「レコン・キスタは、全ての王権の廃止を謳っている以上、我々にも牙を剥く事になります。 悲しい事に、その時、彼らの進攻を防げる力は我が国にありません。 ですから・・・・・・トリステインは、ゲルマニアと早急に同盟を結ばなければなりません。 ふふ、そのような悲しい眼をしないで、ルイズ。 王族として生まれた以上、好きな人と結婚とする事など疾に諦めています」 「・・・・・・姫様」 「私が自分の心を殺せば、幾万の民の命が救えると言うのならば、喜んで私は自分の思いに杖を向けましょう。 王の命は民の為にあるのですから」 儚げに微笑むアンリエッタに、胸を締め付けられるような感覚を覚えたルイズは、どうしても彼女に同情の気持ちを抱いてしまう。 他人から羨まれて仕方の無い王族と言う彼女の立場。 しかし、果たして其処に居る事は、今、目の前で幸せを捨て去るしかない少女が望んだモノだったのだろうか? 「トリステインとゲルマニアの同盟・・・・・・これが結ばれたとなると、レコン・キスタも容易に手出しを出来なくなるでしょう。 ですが、向こうの者達も、それが分かっているらしく、私とゲルマニアの皇帝との婚約破棄の為の材料を血眼になって探しているようなのです」 アンリエッタは言葉を区切り、ルイズの眼を真正面から見据えた。 「私を悩ます原因は、この婚約破棄の原因となりえる物がある事です」 「原因となりえる物・・・・・・?」 「えぇ。私が以前、アルビオン王家・・・・・・ウェールズ皇太子に宛てた手紙。 その手紙が、ゲルマニア皇室に届けられたなら、恐らく、同盟どころの話では無くなるでしょう」 ルイズは、男性としてとても魅力的な事で有名なウェールズ皇太子の名前とアンリエッタの言葉の端々に散りばめられた感情から、 その手紙とやらの内容が、恋文である事が予想できた。 なるほど、大方、遠距離恋愛の文通の中で、戯れに婚礼の言葉でも書いてしまったのだろう。 ブリミルの教えの中で、重婚は重い罪である。 明るみに出れば結婚どころでは無いと言ったのは、どうやら比喩では無いらしい。 アンリエッタは、自分の胸の内だけに秘めた事柄を発した事により、先程よりも幾分、顔から緊張が解けていた。 対して、ルイズの表情は固い。 次に、アンレエッタが言ってくる言葉が予想できた為にだ。 「ルイズ・・・・・・今日、貴方の部屋に訪れたのは、この事に関係しています。 率直に言うと、貴方にはアルビオンに赴き、ウェールズ皇太子の下から手紙を回収してきて貰いたいのです」 心苦しそうに眼を伏せるアンリエッタに、ルイズは、ほらキタと、心の中で盛大に溜め息を吐いた。 「フーケ討伐の噂は、私の耳にも届いています。 幾多のメイジが苦汁を舐めさせられたフーケを捕らえたと言う貴方を見込んで、頼みます、ルイズ」 たかだか『土』のトライアングルのメイジを捕らえただけの生徒に戦場に行って来いと言うのか、この姫様は。 ルイズは、そのあまりの常軌を逸脱した頼み事に、ただ呆れるしかなかった。 温室育ちだと思っていたが、ここまではとは。予想外にも程がある。 だが、幾ら予想外と言えど、友人の・・・・・・しかも国の最高権力者の娘である人の頼みを無碍に断るのは、貴族として如何なものか。 「一つ、聞きたい事があります」 これだけは聞いておかなければならない。 「敵の数は、如何ほどですか?」 「・・・・・・・・・・・・五万、と聞いています」 五万人もの有象無象の敵の中に、切り込む自分の姿をルイズは夢想して、そのあまりの実現の難しさに頭を抱えた。 (ホワイトスネイク、あんた、五万の人間に勝てると思う?) どの道、城に近づくには包囲しているレコン・キスタと事を構えなければならない。 ならば、せめてどのくらいの確立で勝てるかを己の使い魔に問い掛けたルイズであったが――― (勝利ヲ前提トシテ考エルトナルト、君ト私ノ力ヲ最大限活カシタトシテモ難シイダロウ。 ダガ、手紙ノ回収ダケヲ目的トシ、敵陣ノ突破ダケヲ考慮スルノナラバ・・・・・・マァ、ナントカハナルダロウ) (あんた、五万人をなんとか出来るって言うの?) ―――割りと出来そうなニュアンスの言葉を返してきたホワイトスネイクに、思わず聞き返してしまった。 (数ハ、私ニトッテ致命的ナ脅威トナルコトハ無イ) 自身ありげな態度の使い魔に、胡散臭そう、と言った感じの視線を向けてから、ルイズは、アンリエッタの海色の瞳を覗き込む。 淡い色合いをしているその瞳の奥は、友人を死地へと送る罪悪感からか、どんよりと曇っている。 「姫様」 「・・・・・・はい」 「微力ながら、ルイズ・フランソワーズは、全力を尽くして目的の物を回収し、姫様へ届ける事を、此処に誓います」 「―――ルイズ」 ありがとうと、口元を押さえ俯くアンリエッタを見ながら、ルイズは拳を握り締める。 少なくとも、自分を訪ね、迷いを打ち明けた“この少女”は友人だ。 友人であるならば、自分は全力をもって彼女の苦痛を和らげなければならない。 それが、友達と言う関係であるのだから。 「頼みましたよ。ルイズ。 それから、これは王家に伝わる水のルビーです。 お金に困った時には、どうぞ、これを売り払って旅の路銀にしてください」 頼み事が済んだアンリエッタは、自分の指から引き抜いた指輪を手渡すと、 ルイズに一礼をしてから部屋の扉を開け、出て行こうとしたが、どうしても足が動かない。 「姫様?」 怪訝な顔をしたルイズの声に、アンリエッタは、あぁ、と悲しげに呻いた後に、マントから丸められた羊皮紙を取り出した。 「国よりも我を通す私は、きっと王族になど生まれてきてはいけなかったのでしょう。 ですが・・・・・・それでも、私は・・・・・・」 今にも泣き出しそうなぐらいに悲痛な呟きを漏らし、手紙をルイズの手に確りと握らせてから、アンリエッタは言葉を続ける。 「自分の気持ちに嘘をつけない・・・・・・こんな王女を、誰も許してくれないのでしょうね」 懺悔にも似た響きを持つ音に、ルイズは何も言えなかった。 いや、空気を読める者ならば、この時、誰も何も言えなかっただろう。 「だ、だ、だ、誰が許さなくても、僕が許します、このギーシュ・ド・グラモンが許します!!」 空気の読めない馬鹿一名は、声高々に反応した。 ルイズもアンリエッタも、突然現れた人物に驚いて固まってしまう。 そんな二人の様子など、もはや眼にも入っていないのか、 先程からずっと部屋の壁に耳を当てて話を聞いていたギーシュは、やれ、悩みなんて即座に解決してみせますとか、 レコン・キスタなんて、僕のワルキューレでこてんぱんにしてやりますとか、 あからさまに己が領分を履き違えた台詞を言いまくっていた。 なんとかアンリエッタより早く再起動をしたルイズは、目障りな金髪少年を連れて行くように、自分の使い魔に目配せすると、 ホワイトスネイクは、ギーシュの首根っこを掴んで、ずかずかと何処かへ去っていった。 最初は、放したまえ、とか、気安く触れるな、とか、強気な声が聞こえていたが、何かを殴るような音が廊下響いた後は、 勘弁してください、とか、もう許して、とか、実に情けない声に摩り替わっていた。 「あ、あの、ルイズ?」 「すっぱりきっぱり、今の事は忘れてくださいませ、姫様」 笑顔でそう言うルイズに、アンリエッタはこくこくと頷くと、 そのままフラフラと部屋からルイズの部屋を出て行った。 その後ろ姿を、ルイズはぼんやりと眺めていたが、 ギーシュをフルボッコにしたホワイトスネイクが帰ってくると、廊下と自室を隔てる扉を閉めるのだった。 早朝と言うのは、どうして、こうも気が滅入るのか。 才人は、そんなことを考えながら溜め息を吐いた。 「何、ぼさっとしてんのよ。さっさと付いて来なさい」 勝気で、傲慢で、可愛らしいご主人様は、朝も早くから元気一杯らしく、 まだ寝ている才人を蹴りの一撃で文字通り叩き起こしてから、 有無を言わせずに、剣を握らせて自分の後を付いて来るように言い放ったのだ。 ルイズと才人のどたばたに目覚めて、あからさまな不快感を隠さずにルイズを無言で見つめていたシエスタに、 出掛けて来る事を一応言っておいたが、あの顔はまったくもって納得していない顔であった。 帰ってきたら、多分、修羅場なんだろうなぁ、とか才人が考えている内に ルイズは目的の場所に付いたのか、早足だった歩調を止めた。 そこは、寮の五階ある一室の前であった。 「タバサ、起きてる?」 こんこん、と軽くノックをしてから返事を待つルイズであったが、三秒後には扉を抉じ開ける。 「ちょっと、入るわよ~」 良いのかよ、とか才人は思ったが、意見を口に出したら返答は蹴りか裏拳なので、何も言わない。 と言うか、言えない。 「何、まだ寝てるの?」 ベッドの上、ルイズ達が入ってきた事も気付かず、すぅすぅと眠っているタバサは、 上等なピスクドールのように、生きている、と言う単語から掛け離れた可憐さを持っている。 密かに、起こさずにこのまま寝顔を鑑賞したいと変態チックな考えに浸っていた才人を尻目に、 ルイズはベッドの真横に立つと、そのまま軽くタバサの頭を小突いた。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・イタイ」 「起きたみたいね」 小突かれた頭を右手で押さえながら、タバサは恨めしそうに痛みの原因を作った人物を見たが、 そんな視線など気にもならないのか、ルイズはさっさと本題を口にする。 「あんたの使い魔。悪いけど、貸してくれない?」 あまりにもあまりな物言いに、流石のタバサも溜め息が口から出るのを止めることは出来なかった。 「アルビオン?」 「そう、急な用事でね」 自分の使い魔なのだから、どうして必要なのかを訊ねるタバサにぶっきらぼうに返答するルイズ。 その返答に、タバサは昨晩、彼女の部屋に王女が訪ねてきた事を思い出し、 恐らく国許からの頼まれた用事である事を看破したが、その内容までは流石の彼女も分からなかった。 「あんた相手に押し問答をする気も無いわ。 貸すの? 貸さないの? どっち?」 人にモノを頼んでいると言うのに高圧的な態度を崩さないルイズに、タバサは母国の勝気な従姉妹を思い出したが、 すぐに今の状況とは関係ないと彼女の顔を頭から追い出す。 「早く返事しなさいよ。こちとら竜が借りられないなら、馬で出発なんだから」 苛立たしさげに口調を荒げるルイズを宥めようと才人が、まぁまぁと声を掛けるが、返答の裏拳で沈黙する。 ふんっ、と鼻息荒く裏拳を放った拳をプラプラとさせて殴った痛みを散らせているルイズに、 タバサはベッドから立ち上がり、枕元に置いてある自分の身の丈程もある杖を手に取った。 「何のつもりよ?」 「使い魔は一心同体」 だから、と続きを紡ぐタバサは、大きな杖を確りと構え淡々とした声で告げる――― 「私も同行する」 ―――パジャマ姿で。 「・・・・・・どうかと思うわ」 本当に 緩やかとは掛け離れた風に身を委ねるタバサは、ルイズに注意された所為で、 パジャマでは無く学生の正装である制服姿となっている。 「うわっ! すげぇ! この竜すげぇ!!」 「五月蝿い!!」 背後の雑音に気を取られる事も無く、自分達を凄まじい勢いで運ぶ使い魔の首を撫でるタバサの顔は、睡眠不足の為か、幾分眠たそうであった。 「大丈夫、あんた?」 「問題無い」 普段通りの無愛想なタバサに、ルイズは、そう、と別段追求もせずに進行方向とは逆。 つまり、自分達が出発してきた学院の方へと視線を向ける。 「キュルケの奴・・・・・・どうしてるのかしらね?」 そういえば、あの赤毛の少女には何も言わずに出てきてしまった。 伝える義理が無いと言えば無いが、やはり友人に一言も無しに居なくなるのは、心苦しいものがある。 例え、それが伝えられないであろうものだとしてもだ。 「あんた、どう思う? キュルケが、今、何をしているかって」 ルイズの問い掛けに、タバサは暫く考え込むと、ルイズの方へと振り向き口を開く。 「怒っている」 「でしょうねぇ」 こりゃ、帰ったら大変ね、とルイズは頭を抱えるのだった。 ちなみに、同時刻。 もう出発したとも知らずに、ルイズ達を正門の前で待ち続けている、 髭を蓄えた凛々しい男が、何時まで経っても来ない彼女達に、ルイズと同じように頭を抱えているのは、 別にどうでも良い話だったりする。 第十一話 戻る 第十二話
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/320.html
「おお、来おったか、ミス・ヴァリエール」 ルイズは、オールド・オスマンに呼び出されて、学院長室にいる。 呼び出された理由は決闘以外のなにものでもない。 「さて…、今日はヴェストリの広場が妙に騒がしかったの」 「………」 ルイズは答えない、いや、答えられない。そもそもルイズとギーシュの決闘という事であれば、ルイズとギーシュが責任を取らせられるが、あのメイドに責任の余波が及んでしまっては自分のしたことの意味がないからだ。 「そこにある遠見の鏡で見させて貰ったぞ」 「はい…」 力なく答えるルイズ。しかし、そんなルイズを見たオスマン氏は楽しそうに笑い出した。 「ほっほっほ、見事じゃった、ミス・ヴァリエール。これであの小僧も少しは反省するじゃろうて」 その言葉に驚いたルイズは、はい、とだけ答えた。 「遠見の鏡と言ってもな、ある程度は声も伝えられるんじゃ。この喧嘩の原因はギーシュの二股ではなく、メイドの…確かシエスタと言ったかの、その娘が原因のようじゃな」 「はい、ですが」 「それ以上言わんでいい。あの娘はメイドとしての義務を果たしただけじゃ。この学院の人事に関する決定権は女王陛下からワシが賜ったものじゃ。生徒が騒いだぐらいでメイドを路頭に迷わすようなことはせんよ」 「ほ、本当ですか!…ありがとうございます」 学園長のオールド・オスマンは、齢300とも言われる偉大なメイジであり、あらゆる立場の者達に分け隔て無く接する貴族だとも噂される。 格式や血統を重視する貴族達の中では珍しい存在だが、正直ここまで暖かい言葉をかけられるとは思っても居なかった。 「それにあの娘もあと五年…いや二年もすればムッチムチのプリンプリンに…」 訂正しよう、平民相手にも貴族相手にも見境のないエロジジイだ。たぶん。 ルイズの軽蔑するような視線に気づいたのか、オホン、と咳払いをして居住まいを正した。 「さて本題に入ろう。アンリエッタ姫殿下が近々この学院を訪問なさるそうじゃ」 「えっ!姫殿下が…」 「そうじゃ、姫殿下は今近隣の領地を視察されておっての、こ視察の締めくくりとしてこの学園に訪問される。そこで『使い魔の品評会』を開こうと言うんじゃが…」 ゴクリ、とルイズののどが鳴る。 「王家からの使いの方が言うには、欠席は認められないそうじゃ」 ルイズの肩に、久しく感じていないプレッシャーが重みとなって感じられた。 欠席は認められない。メイジとして使い魔が居ないというのは、非常に不名誉なことだ。姫殿下の前で一人だけ使い魔のいない姿を晒すのは何としてでも避けたい。 「具体的な予定はまだ決まってはおらんし、中止の可能性もある。順調なら十日後あたりに朝食で発表され、その翌日か翌々日あたりにでも開催されるじゃろう」 オスマン氏はじっとルイズの顔を見た。真面目な表情のオスマン氏を見るのは珍しい。普段はくだらない冗談を言ったりしている。生徒達にも「本当に偉大なメイジなのか」と疑問を持つ人も少なくない。 しかし目の前に居るオスマン氏は間違いなくメイジの、貴族の顔だ。 これにはルイズも緊張して、体を硬直させてしまった。 「ほっほっほ、まあメイジには特性があるしのう。今は精一杯がんばりなさい」 そう言って笑うオスマン氏の顔は、同一人物とは思えないほど和やかだった。 話が終わり学院長室を出ようとしたルイズだが、オスマン氏が何か思い出したかのように「ああ、そういえば」とつぶやき、ルイズを引き留めた。 「ミス・ヴァリエール。ところで女子寮の中で何か変わったことは起きておらんかね」 「え? いえ、特には…」 「ふむ、それならいいんじゃ。行ってよろしい」 オスマン氏の言葉に何か腑に落ちないものを感じつつ、ルイズは学院長室を後にした。 夜中。 キュルケから差し入れられた『ゲルマニア特性冷え性に効く特効薬』を、 半ば無理矢理飲ませられたタバサは、いつもなら眠っている時間に目が覚めた。 尿意だ。 眠い目をこすって部屋を出て、寝間着のままお手洗いに向かう。 廊下を歩く途中、何かが揺らめいたように見えた。 「…?」 よく目をこらして見ると、身長2メイルほどの白い人影が、ぼんやりと浮かび、消えた。 そしてその翌日から、女子寮では小物が紛失するといった事件が多発するようになる。 余談だが 人影を見た翌日、タバサはなぜか下着を二枚く洗濯していたとか。 前へ 目次 次へ
https://w.atwiki.jp/terrachaosgaiden/pages/176.html
ジョジョの奇妙なダーツの旅 カオスロワ外伝編 ID IOyzt0pc 「本」という漢字は、「物事の基本にあたる」という意味から転じて書物を指すようになった。 故に何かを成すにしても基本……いや、基礎となる知識が重要であろう。 東京都文京区立のとある図書館。今、そこには所ジョージはいた。 彼はスタート地点である東京ドームに誰もいないこと(一人いたのだが、所さんは視認していない)を確認し、移動した。 「……それにしても、誰もいないな」 所さんが言った通り、図書館には誰一人いなかった。 どの棚の本も綺麗に整列されている所を考えるとまだここに人は来ていないのだろう。 それはそれで所さんにとって好都合だった。まだ本がここに残っているだから。 「工学系の本と……生物図鑑が必要になるな」 求める本は工学系の本と生物図鑑。 前者は首輪の解除に役立つかもしれない。 後者はあの主催者(昏き海淵の禍神)について何か分かるかもしれない。 さっそく、所さんは行動に移り、本を漁り始めた。 「スタープラチナッ!!」 ……否、漁るのは所さんではない、所さんのスタンド『スタープラチナ』だッー!! 眼にも止まらぬ光速の拳のラッシュで本を棚からデイバックに移し替える。 所さん(のスタンド)は上下左右の本を次々に取っては入れ、取っては入れる。 スピードA精密動作Aのスタンドの無駄d……有効活用である。 その数分後、数多くの本が所さんの手元に集まった。 「これで粗方、ここにある本は回収できたようだな。 ……しかし、このデイバック一体、どうなっているんだ。さっきのアレが入っていたことといい。 まぁ、いいか……。さて、これからどこに行こうか?」 所さんは広げた地図を前にして、あることを考え始めた。 それは東京都において人が多く、集まりそうな場所についてだ。 だが、結論はすぐに出た。 「都庁か東京駅、もしくはTV局と言ったところか…… ここからだとあるのは全部南の方角だな」 そして、所さんはゆっくりとした速度で歩み始めた。 【文京区/一日目・日中】 【所ジョージ@実在の人物】 [状態]小疲労 [装備]スタープラチナのDISC@ジョジョの奇妙な冒険 [道具]支給品一式、ランダム支給品0~2(本人確認済み)、大量の本(技術書や生物図鑑等)@色々な作品 [思考] 基本:殺し合いには乗らないが、自己防衛はする。 1:南に向かって歩き、参加者と接触する。 [備考] ※時を止められるかどうか不明です。 大量の本(技術書や生物図鑑等)@色々な作品 所さんが図書館で集めた本。 技術書や生物図鑑の他にも何か違う本があるかもしれません。 046 ショーグン・プリンセス・オールイーター 投下順に読む 0478ピンクorローズ 046 ショーグン・プリンセス・オールイーター 時系列順に読む 048 ピンクorローズ 017 キョンの奇妙なバトロワ 所ジョージ 072 ジョジョの奇妙なダーツの旅 第一参加者発見編